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静岡簡易裁判所 昭和35年(ろ)9号 判決 1960年7月04日

被告人 大村ふみ子

主文

被告人を罰金弐万五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は実母ことの経営する幼稚園の教諭として園児の保育に携る傍ら昭和三四年一〇月三日静岡県公安委員会より小型自動四輪車の運転免許を受け、爾来反覆継続して私用のドライブ或いは家人の送迎等のため園児送迎用の小型四輪乗用車静四す七二八八号を運行の用に供し、以て自動車運転を業としていたものであるところ、

同月一四日午後一時一〇分頃回送のため前記自動車を運転し静岡市広野地内二級国道上を同市用宗方面に向け時速約三〇キロメートルで南進中同市広野三二七番地先路上にさしかかつた際右前方から北進して来る対向車を避けるためハンドルを左に切つて擦れ違いを終つた直後前方約一〇メートルの地点に道路左端非舖装面を話しながら歩行して来る児童三名を発見したが、かかる際は自動車運転者としては右児童らと接触することのないよう充分に間隔を取つて擦れ違う等事故発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、漫然無事通過し得るものと軽信し、ハンドルを僅に右に切つたのみで右児童らの側近を擦れ違つた過失により、右児童らのうち最後尾に居た永野寿夫(当六年)に自動車左側後部を接触させて路上に転倒せしめ、よつて同人に対し全治約四ヶ月を要する左大腿骨骨幹部骨折の傷害を与えた

ものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

弁護人は、被告人の判示運転行為は単なる個人的な趣味、スポーツの域を出でず、被告人の社会的地位とは無関係であるから刑法第二一一条にいわゆる業務に該当しないと主張するのでこの点について判断する。同条にいう業務とは、人がその社会的地位に基き反覆継続して従事する仕事と解すべきことは判例、通説のひとしく認めるところである。而して右にいう「社会的地位に基き」とは一般的に「社会人としての立場において」という程の意味であつて必ずしもその者の社会生活上の特定の地位に基くことを要しないと解するのが相当である。換言すれば、或る行為がそれ自体社会的性質を具有する場合は、たとえその行為が行為者の特定の社会的地位(例えば主たる職業)と全く附随関係を有しない場合であつても、なお人がその社会人としての立場においてなす行為すなわちその社会的地位に基きなす行為たることを妨げないものといわなければならない。蓋しこのように解することは同条にいう業務の概念を不当に拡張するものではなく、却つて業務上の過失を重く罰する立法の趣意に副うものといえるからである。従つて本件の公道上の自動車運転行為の如きはその性質上常に社会性を有する行為というべきであつて、これを行う動機、目的の如何或いはその者の属する職業の如何を問わず社会人としての立場においてなす行為であると認められるから、被告人が判示のようにこれを反覆継続して行つた以上報告人の業務と認めて差支えないのである。

そこで法律に照らすと被告人の判示所為は刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に該当するから所定刑中罰金刑を選択し被告人を罰金弐万五千円に処し、刑法第一八条を適用して被告人が右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従い訴訟費用は全部被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 半谷恭一)

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